2020年10月16日公開、コロナ禍下の異常値。千と千尋の神隠しを抜き、日本歴代興行収入1位を更新。ufotable直販モデル、3社方式の少数精鋭製作委員会、海外配給拡張——アニメ業界の収益モデルを根本から書き換えた転換点。
2020年10月16日、東宝・アニプレックス共同配給の劇場アニメーション『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が全国403館(うちIMAX38館)で公開された。COVID-19パンデミック下、緊急事態宣言が解除されたばかりで、劇場の入場制限がまだ続く中の公開だった。
| 初日3日間 | 動員342万人・興行収入46.2億円(日本歴代映画史で初日3日間動員・興収ともに歴代1位) |
|---|---|
| 10日間 | 10月25日に興収100億円突破(『君の名は。』の172億円越え記録を更新) |
| 73日間 | 12月27日、興収324.7億円達成。20年近く保持されてきた『千と千尋の神隠し』316.8億を抜き、日本映画歴代1位を更新 |
| 最終 | 2021年5月までで国内興収404.3億円、全世界517億円、全世界来場者4,135万人 |
| 北米 | 2021年4月23日に約1,600館で公開、初週末2,100万ドル(約22億円)。北米の外国語映画オープニング記録歴代1位を更新 |
原作は吾峠呼世晴が『週刊少年ジャンプ』で2016年2月から連載していた漫画。2019年4月、ufotableがアニメ化したTVシリーズが放送開始。当初は中堅人気作だった。連載初期は「掲載順位が真ん中より下」「絵柄が古い」と読者から評価されていた。しかし、アニメの第19話「ヒノカミ」(2019年11月)の戦闘シーン作画とufotableのデジタル合成技術が話題になり、原作の単行本売上が爆発。
劇場版の制作はTVシリーズ放映前から決定していた。ufotable代表・近藤光のもと、徳島市内のufotable本社で内製化(背景・3DCG・撮影をすべて社内で完結)された。ufotableはAutodesk Mayaを駆使した「2D作画とCGの融合」で知られ、無限列車編の蒸気機関車CG・煉獄杏寿郎の戦闘シーンの炎エフェクトは映画館スクリーンを意識した高解像度設計だった。
製作委員会方式は通例のテレビ局・広告代理店・出版社等の多社方式ではなく、アニプレックス(ソニー子会社)・集英社・ufotableの3社のみで構成された珍しい体制だった。
2020年10月14日、公開直前に主題歌・LiSA「炎(ほむら)」がリリース。ストリーミング・ダウンロード合計55冠(紅蓮華の38冠を更新)を達成、累計ストリーミング3億回・ダウンロード100万DL以上のミリオンヒット。
2020年は世界の映画興行が壊滅的だった年だ。米国の年間興行収入はコロナ前の20%以下まで縮小。だが日本は『無限列車編』の単一作品が、2020年の世界興行収入1位(515億円)を獲得。「劇場で映画を観る体験は、感染リスクを上回る価値がある」と観客が証明した珍しい事例となった。
通例のアニメ製作委員会は10社前後(テレビ局・広告代理店・出版社・玩具メーカー等)で構成され、出資比率に応じた合議制で運営される。アニメ業界では「『鬼滅』モデル=3社方式(アニプレ・集英社・ufotable)」の方が利益分配が明快で意思決定が速いとして、後続作品(『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『推しの子』等)の製作委員会編成に影響を与えた。
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 制作費 | 約5億円 | — |
| 宣伝費 | 約2億円 | — |
| 興行収入 | 400億円 | — |
| 製作委員会純利益 | 約133億円 | 税・配給会社取り分・劇場取り分等を控除後 |
| アニプレックス取り分 | 約54億円 | — |
| 集英社取り分 | 約54億円 | — |
| ufotable取り分 | 約12億円 | 成功報酬を10%乗せたのが特徴 |
ufotableは『鬼滅』ヒット以前から、徳島・東京・大阪・名古屋に「ufotable Cafe」を展開。劇場版公開時には特典(来場者プレゼントのミニ冊子「煉獄外伝」)の制作からカフェメニュー・グッズ制作までを一気通貫で内製化。アニメ会社が「制作だけでなくIP収益化までを内製化する」モデルが業界に広がった。後に『鬼滅』と同様の枠組みでJ.C.STAFF・WIT STUDIO等もカフェ・物販事業に参入する流れを作った。
無限列車編は北米でAniplex of America×Funimation Globalの共同配給で展開。これは深夜アニメ作品としては異例の大規模配給で、結果として海外興行で約113億円を稼ぎ、海外比率約22%を達成。後の『ONE PIECE FILM RED』(2022、海外興収約122億円)、『すずめの戸締まり』(2022、海外興収177億円)、『THE FIRST SLAM DUNK』(海外興収400億円超)に至る「日本アニメ映画は海外で稼ぐ時代」の先駆けとなった。
2020年6月、東京国税局はufotableおよび代表・近藤光を脱税容疑で告発した。同社は2015〜2018年にかけて、運営する徳島・東京・名古屋・池袋の4店舗のカフェ売上の約3割(合計約4億4,600万円)を意図的に帳簿から除外し、法人税約1.1億円・消費税約2,900万円を申告漏れにしていた。
近藤は売上現金を自宅金庫に保管しており、強制調査時には自宅から約3億6,000万円の現金が見つかった。2021年12月の判決で近藤は懲役1年8ヶ月(執行猶予3年)、会社に罰金3,000万円が言い渡された。
公開初週、TOHO・松竹・東映等のシネコン大手は連日「全シアターを鬼滅で埋める」異例の編成(1日42回上映)を敷いたが、それでも需要に追いつかず、深夜帯の上映回まで満席が続いた。一部劇場では「他作品をかけられない」事態が発生し、2020年10月公開予定だった洋画・邦画作品が一時的に劇場確保に苦戦。配給会社間の調整不足が露呈した。
出典: AV Watch「劇場版『鬼滅の刃』興収400億円突破。全世界で約517億円」 / 映画.com 細野真宏「劇場版『鬼滅の刃』のメガヒットで、どの会社にいくら利益が出るのか」 / 日本経済新聞「鬼滅制作会社脱税疑い」 / ファミ通「鬼滅 無限城編 第一章 全世界1,179億円」 / Autodesk AREA「世界を虜にしたアニメ『鬼滅の刃』はどう作られたのか」