2020年7月、韓国カカオ系の漫画アプリ『ピッコマ』が、首位を1年7ヶ月堅持していた『LINEマンガ』を抜き、非ゲームアプリ売上ランキング1位を獲得。「待てば¥0」課金モデルと縦読みWebtoonの組み合わせで日本マンガ市場の50%超を支配する韓国アプリの誕生。
2020年8月、モバイルアプリ調査会社App Annie(現data.ai)が公開した「7月度・日本国内非ゲームアプリ売上ランキング(App Store+Google Play合算)」で、ある事件が起きていた。それまで2019年1月以来、1年7ヶ月にわたって首位を堅持してきたLINEヤフー子会社の『LINEマンガ』を、韓国カカオ系の漫画アプリ『ピッコマ(piccoma)』が抜き、初めて1位を獲得したのである。日本のマンガ業界で「電子マンガNo.1は日本企業のもの」という常識を、4年前に上陸したばかりの韓国アプリが覆した瞬間だった。
| 第1の柱:「待てば¥0」課金モデル | 各話の初回購入は通常50〜100円のコイン消費。24時間(または12時間)待てば次の話を1話だけ無料で読める無料チケット付与。「全話を無料で読みたい」と「次の話を待てない」の間で揺れ動き、結果的に多くが「待てない衝動」に従って課金。韓国カカオページが2014年に発明、ピッコマが日本にローカライズ。 |
|---|---|
| 第2の柱:韓国Webtoon独占供給 | カカオページの人気作(『俺だけレベルアップな件』『神之塔』『梨泰院クラス』『再婚承認を要求します』『悪女の夫を寝取りました』等)を日本語化。集英社・講談社・小学館・KADOKAWA等の日本マンガも並行取扱い、Webtoon+日本マンガのハイブリッドカタログ。多様なジャンル(恋愛、転生、異世界、BL、TL)を網羅し、女性中心20〜40代に拡大。 |
| 年 | MAU | 年間取引額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2019年 | 300万 | — | — |
| 2020年 | 900万突破 | 376億円(前年比2.8倍) | 7月にLINEマンガ抜き1位、コロナ禍が拡大要因 |
| 2022年 | 1,000万突破 | — | — |
| 2023年 | — | 1,000億円突破 | 単一電子マンガプラットフォームとして世界唯一の到達 |
| 2024年 | — | 1,200〜1,500億円規模(推定) | data.aiが「日本のコンシューマー支出最高アプリ」3年連続1位、月次消費者支出74〜80億円 |
ピッコマ席巻の最大の業界インパクトは、日本マンガ業界に「縦スクロール・フルカラー・スマホ最適化」という新しい表現フォーマットを根付かせたこと。日本の従来マンガは「右開き・モノクロ・見開きのコマ割り」を前提に、最適な読書環境は印刷物だった。これに対しWebtoonは「上から下へスマホで親指スクロール、フルカラー、1コマずつ視線が移動」という、印刷を前提としない設計。スマホネイティブ世代(Z世代)にとって読みやすく、片手・ながら読みに適していた。
競合各社(『LINEマンガ』『マンガBANG!』『マンガワン』『少年ジャンプ+』『マンガMee』など)にほぼすべて模倣された。日本の電子マンガ市場の課金構造が「巻き買い」モデルから「話単位の少額課金」モデルへ移行。1巻買い切り(500〜700円)から、1話あたり50〜100円のマイクロトランザクションへの転換は、若年層・低所得層を新規読者として取り込む結果となった。
| 項目 | 2020年 | 2023年 | 成長率 |
|---|---|---|---|
| 電子コミック市場規模 | 3,420億円 | 4,830億円 | +41% |
ピッコマは韓国カカオエンタテインメントが保有する数千作品のWebtoon IPを日本市場に流すパイプラインの役割を果たした。これにより韓国Webtoon→日本ローカライズ→日本テレビ局・配信プラットフォームでドラマ/映画化、というIP輸出の流れが定着。代表例:『梨泰院クラス』(韓ドラ→日本リメイク『六本木クラス』、TV朝日)、『俺だけレベルアップな件』(アニメ化A-1 Pictures、2024年)等。
ピッコマは日本の出版社を「コンテンツ供給先」として扱う立場にあり、紙時代の「出版社が王様」という構造を覆した。集英社・講談社など大手出版社は当初、自社IPのピッコマ提供に消極的だったが、市場規模が大きくなりすぎて無視できず、最終的に主要作品をピッコマで配信する形となった。2024年12月にはKADOKAWAとピッコマが共同で電子コミックマガジン『MANGAバル』をリリース。出版社が「プラットフォームに合わせる」方向への構造転換が進行している。
ピッコマが2016年4月に上陸した時点で、日本のマンガ業界は「縦読みは韓国・台湾のローカル現象であり、マンガ大国・日本では流行らない」と楽観視していた。集英社が縦読み専門の『ジャンプTOON』を発足したのは2024年で、ピッコマ上陸から8年遅れ。講談社の縦読み編集部発足も2023年。
日本市場でWebtoon型サービスを最初に投入したのは韓国NHN(現NHN PlayArt)の『comico』(2013年10月リリース)。ピッコマの3年前に「縦読み・無料閲覧」モデルを日本に持ち込み、2015年時点でMAU1,000万人を超える勢いだった。だが、コンテンツ調達競争(カカオの方が韓国本社のIP保有量が多い)、収益化モデルの不明瞭さ等の理由でピッコマに追い抜かれ、2020年代に存在感を大きく失った。
LINEマンガは2013年立ち上げ、2019年1月に売上首位獲得後1年半連続首位。しかし、サービス内のWebtoonコンテンツ比率が低く、日本の出版社マンガ中心のラインナップにとどまっていた。2020年に首位陥落。LINEマンガは2022年以降にWebtoonに大きく舵を切り、2024年時点で売上が回復・首位返り咲きする展開となった。
ピッコマは2021年に欧州市場(フランス)に進出し、欧州版piccomaサービスを開始。だが現地読者の取り込みが進まず、2024年5月に欧州事業からの撤退を発表。日本市場では絶対王者だが、欧州ではWebtoonジャンルがLINE Webtoon(ネイバー)に圧倒され、ピッコマは認知獲得で苦戦した。
出典: Yahoo!ニュース(飯田一史)「LINEマンガを抜き売上日本No.1になったピッコマ」 / 日本経済新聞「漫画アプリ首位LINE、迫るピッコマ 韓流縦読み席巻」 / GAME Watch「ピッコマ 2023年年間取引金額1,000億円突破」 / Nikkei Asia「Kakao's Piccoma app goes viral in Japan」 / Bloomberg「漫画アプリ ピッコマが日本上場へ、時価総額8000億円超も」 / Anime News Network「Piccoma Named Japan's Top Consumer-Spending App for 2024」 / Comics Beat「Kakao Piccoma to shutter French Webtoon app」 / AppBank「ピッコマとKADOKAWAのMANGAバル」